✭序✭
『秋刀魚』はいつだって、人びとが憧れてたもの、魅了されてたものについて深掘りしていきたい。50号で表した日本精神は、さりげないつつも深みや趣きを見せる「ファッションコーディネート」ではないかと思う。トレンドを追うよりも、自分らしく居られる姿で、自分の音楽の好み、趣味嗜好、信念や思考まであらわす魔法のようなものだ。
「ファッションといえば、あの方だ!」と考え、一年以上の調整と連絡を経て、俳優・歌手として活躍中の菅田将暉さんを撮ることができた。写真集『着服史』に見える彼のファッションスタイルは、パフォーマー兼ファッション愛好家ならではのセンスを示している。枠にはまらない独特な演技と音楽創作は、私服史や衣装史を俯瞰すれば一目瞭然だ。真摯に好きなものごとを世界にシェアする彼の価値観は、普段身につけるもの、感情溢れるパフォーマンス、曲の歌詞からも感じられる。ひとどきにとどまらない、いつまでも温かみのあるアーティストであることは菅田将暉流だ。
今まで著名人を表紙に起用しなかった『秋刀魚』は、撮るなら特集テーマにもっとも相応しい人選を撮らないと。表参道のフォトスタジオにて、菅田将暉さんが撮影前夜に準備したスーツケースを開け、テーマ「古着」に沿って私服やヴィンテージウォッチコレクションを持ってきてくれた。
彼が『秋刀魚』と一緒に良い撮影をしたい気持ちは、『秋刀魚』編集部へと、読者たちへのプレゼントだ。
この真摯さは、これからの50号にも持ち続けていきたい。
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✭特集✭
衣服は、言葉に先立つもう一つの言語である。言葉が立ち上がる以前に、私たちに代わって世界へと記号を投げかけ、宗教やジェンダー、社会的地位、嗜好といった情報を内包しながら、個人と世界との関係性を映し出してきた。だからこそ、「なぜ日本文化はこれほどまでに人を惹きつけるのか」とあらためて問い直すとき、街角で洒落た装いをまとう人々の姿そのものが、すでにひとつの答えや手がかりを示しているのかもしれない。
『秋刀魚』が第50号を迎えるにあたり、私たちは一本の糸を手繰り寄せるように、衣服を愛する人々との対話を重ね、日本がこの〈言語〉を高度に使いこなしてきた理由を織り上げていく。
なかでも、日本を代表する俳優であり歌手でもある菅田将暉は、ツアーを終えたその足で古着店に立ち寄るほどの古着愛好家だ。彼にとって古着を研究することは特別な行為ではなく日常そのもの。異なる時代やスタイルの古着を日々身にまとい、身体を通して次に演じる役を先取りするように準備している。
同じく衣服への深い愛情を抱き、常に視線を未来へと投げかけながら時代の流れを牽引してきたのが、ファッションバイヤーやブランドディレクターたちだ。Graphpaperの南貴之、IMA:ZINEの谷篤人(TANY)、NEPENTHES WOMENの須藤由美、SillageのYuthanan、F/CE.のYUTA、そして古着店Mr.Cleanの栗原道彦、studiolab404のMonet。彼らはいずれも流行の惰性に安住することなく、日本の美意識に多層的で豊かな文脈を築いてきた存在である。
また、BEAMSの台日メンズバイヤーである鈴木竹彦とEddieへの取材を通して、バイイングの視点や台日間の感覚の違いを探り、最後には71歳を迎えた元ファッションエディター・岡本仁が、いまなお心惹かれているアイテムについて語ってくれた。
衣服もまた、きわめて複雑な言語である。視覚という単一の感覚から成り立ちながら、その奥底には文化的背景や生き方の姿勢が幾重にも折り重なっている。衣服を愛する人々の眼差しを通して、私たちはこの言語により深く近づき、ひいては、より厚みがあり、奥行きに満ちた、日本文化の魅力に触れることができるのだ。
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